#3 子供は筋トレすると身長が伸びなくなる?
昔から子供に筋トレをすると身長が伸びなくなると言われていますが、はたしてそれは本当でしょうか?
ボディビルダーは身長が低い方が有利と言われています。それは同じトレーニングを行っても、身長が高いと線が細く見えるからです。筋肉の大きさは断面積に比例するので、同じ量の筋肉では短い方が太く大きく見えるからです。身長が高いと内臓の容積も増えるため基礎代謝量が上がり、身長の低い人よりも栄養の摂取量やトレーニング強度を上げないと筋肉量も増えないため、筋肉の合成より分解の方が上回ってしまうからです。
体操やレスリングで身長の低い選手が多いのも、身長が高いと不利になるためです。彼らは筋トレをしたから小さい訳ではありません。身長の伸びがある程度収まるころトレーニングによる筋肉肥大が始まるため、早い時期に低身長で筋の成長が始まった人ほど筋力の発達が早くなります。
適度な筋力トレーニングは成長ホルモンの分泌を促します。成長ホルモンが分泌されると肝臓からIGF-1(インスリン様成長因子)というホルモンも分泌されます。IGF-1は細胞増殖を促し、人体のほとんどの細胞、筋肉・骨・神経・臓器などの成長を促進します。
筋トレはインスリン感受性(作用しやすさ)も高めるため、血中ブドウ糖を筋肉や肝臓に速やかに取り込み、グリコーゲン(貯蔵エネルギーの形)の合成を促し血糖値を下げる作用もあります。グリコーゲンでも貯蔵できない余ったブドウ糖は、インスリンの作用によって脂肪細胞に取り込まれ脂肪を蓄積させていくので、インスリンは「肥満ホルモン」とも呼ばれています。
では筋トレの開始年齢はいつ頃からが適切なのでしょうか?
平成23年に日本学術会議が提言した21世紀提言「子供を元気にする運動・スポーツの適正実施のための基本方針」の中で、
・「0~5才児において全身運動を含めた短時間の運動遊び」
・「5才児以上では、骨や筋肉を強化する運動を含む、毎日計60分以上の中等度~高強度の身体運動を行う」
と提言されています。
⇒「日本学術会議 21世紀提言PDF]
その中で、アメリカでは1980年代から小児肥満が急増したため、90年代から全米スポーツ体育協会によってガイドラインが策定され、5才までの年齢ごとの運動、5才~12才以上の運動基本方針が出され、
「中等度~高強度の身体活動・運動を1日合計60分~3、4時間ほぼ毎日実施すべきである」とされています。
スポーツの分野では、ゴールデンエイジと言われる11才~12才をピークに神経系の発達が形成されると言われています。神経系とは、アジリティ【敏捷性(びんしょうせい)】や体幹バランス、コーディネーション【巧緻性(こうちせい)】、心肺機能、筋力といった身体機能の事で、身体を思う通りに動かす能力に必要な要素の事です。「スキャモンの発育曲線」が有名ですが、身体機能は生まれてから5才頃までに80%ほどが形成され、11才~12才でほぼ100%が形成されます。そのため、12才までに様々な動きを経験させておくことが神経系の発達において非常に重要になります。
時代の流れによって、最近では子供が外で遊ぶ姿をほとんど見かけなくなりました。スマホやタブレット、ゲーム等インターネット通信機器の発達によって、それを使って遊ぶ子供も増え、姿勢がとても悪い子供も増えています。
フィジカルトレーニングを見ていると、姿勢筋がうまく働いていない子は姿勢トレーニングを行った時に、主に首から背中にかけて痛みを訴える事が多いです。筋力バランスが崩れた状態を続けていれば全体に歪みが生じ、慢性的な痛みを抱える原因になりパフォーマンスの低下を招いてしまいます。
家に帰ると寝そべったりソファに腰掛けて長時間不良姿勢でスマホやゲームをしている子供も多いと思います。それに加えて習い事や塾にも行き、やはり長時間椅子に座って勉強している子もいるでしょう。
そうなると一日の中で全身を使って遊んでいる時間はどれくらいになるでしょうか?学校の体育時間、クラブ活動位でしょうか。最近では休み時間も外で遊ばないと聞きます。運動習慣もない子は全身を動かす機会さえほとんどないと思います。
筋肉は使わないと細くなり収縮力は落ち、衰えていきます。骨にかかる負担も少なくなるので骨成長も低下します。小さいうちから筋力トレーニングを行う事(身体を使う事を覚えること)で、大人になってからも自分でトレーニングを行う癖が身に付きます。正しい方法で行う事でケガも防げます。自分の体で実践し体感していくことで深い理解に繋がっていきます。今は分からなくても、将来きっと自分を助けてくれる時がくると私は信じています。
クラブでは、姿勢トレーニングや体幹筋を強化して、サッカーのみならず日々の身体活動を高めるための筋力トレーニングも取り入れています。おうちに帰ったら、スマホやゲームはまず置いて、習った事を復習してみましょう。
チームトレーナー與那城