#13 鉄とタンパク質を最優先に考える
前回にもお話しました通り、今回は最重要ミネラルの一つである「鉄」についてご説明していきます。
鉄といえば、お母さんをはじめ女性の方は特にピンとくると思いますが、血液成分である赤血球を作るときに必要なミネラルですね。貧血気味な人は血液検査で、「Hb(ヘモグロビン)」「MCV」「MCH」といった項目のご説明を受けると思いますのでご存知の方も多いかと思います。
これらは、主に貧血の種類や赤血球の異常を調べるために用いられる項目です。
さてこの「鉄」ですが、体の中でどういう働きをしているかご存知でしょうか?
体の中には約4〜5gの鉄が存在しており、そのほとんどはヘモグロビンやミオグロビンといったヘムタンパク質と結合しています。
残りはトランスフェリンやフェリチンなどのタンパク質と結合して運搬されたり貯蔵されたりしています。
摂取した鉄は腸管から吸収され肝臓へ行き、骨髄や血液中に運ばれます。骨髄へ運ばれた鉄はそこで赤血球を作るために使われます。
赤血球の寿命は120日です。寿命を終えると赤血球は脾臓に運ばれて壊され、鉄はまた新しく赤血球の材料として使われます。
タンパク質と結合した鉄は酸素と手を繋ぐ事ができます。つまり、鉄がタンパク質と仲良くくっついている数が多ければ多いほど多くの酸素が運べるという事です。感の良い選手はもう分かったかな?
酸素を必要とするのはどこでしたか?
そうです。細胞内にあるミトコンドリアでの好気性代謝、電子伝達系のところでしたね。
酸素を使ってエネルギーを作るとATPがたくさん作れるんでしたよね、覚えていますか?
ミトコンドリアの好気性代謝システムをしっかり働かせ、ATPをたくさん作るにはどうしたらよかったでしょうか?
糖質を控えてタンパク質や脂質をしっかり摂取する事でしたよね。
鉄が働くのはエネルギーシステムやヘモグロビンを作るだけではなく、コラーゲンの合成を促進したり、神経伝達物質と呼ばれるアドレナリンやノルアドレナリン、セロトニン、GABAといった興奮したり落ち着いたりするときに必要な物質の合成にも深く関わっています。
もちろん運動する時もこれらの伝達物質がうまく作れなければ、運動機能にも影響が及んできます。
鉄が欠乏してくると、立ちくらみやめまい、頭痛、肩こり、足がムズムズする、爪が割れやすくなる、髪が抜けやすくなる、アザができやすくなる、歯茎が出血しやすくなるなど様々な症状が出現してきます。
実は近年の食生活事情からタンパク質や鉄が大きく不足していることにより、子供の発達障害や学習障害、産後うつなどのメンタル機能や行動に大きく影響している事が分子栄養学の観点から分かってきています。
タンパク質=鉄なので、これらの栄養素が低下してくると、必然的に食事は糖質寄りにシフトしていきます。
糖質が多くなると血糖値スパイクという反応が起こってくるので、イライラして怒りやすくなったり、急にハイになったり、ボーッとしたり、疲れやすくなったり、急に眠くなったり、無性に甘いものが食べたくなったりといった様々な症状が出てきます。
現代の食事は糖質で溢れ返っているので、普通の食事をしていると知らない内にたくさんの糖質を摂取することになります。
特に異性化糖と呼ばれる「ブドウ糖果糖液糖」「果糖ブドウ糖液糖」などの人工的に作られた糖質はお菓子、パン、ジュース、加工食品などほとんどの食品にたくさん含まれています。
異性化糖はたくさんの被験者にそれぞれ濃度の違うものを飲ませてテストを行い、人が幸せを感じる一番最適な濃度で作られた物です。
特に良かれと思って食べているカロリーオフや脂質ゼロなどの商品には実は糖質が多く入っています。これはカロリーで食事を考えているためで、カロリーを抑えようという理解でいくと脂質を省いてしまうからです。
栄養素のカロリーは1gにつき、糖質4kcal、タンパク質4kcal、脂質9kcalです。
この考えをもとに作られるため、脂質が大幅にカットされその分糖質が増えてしまうのです。中性脂肪やコレステロールもなくてはいけない栄養素です。
脂質は脳や神経細胞、細胞膜、エストロゲンやコルチゾールなどの炎症を抑制するためのホルモン、低燃費エネルギー源の材料になるなどとても大切な栄養素です。
特に魚などに多く含まれるDHAやEPAなどのオメガ3系脂肪酸は必須脂肪酸とも呼ばれ、必須アミノ酸と並び必要不可欠な栄養素なのです。
エネルギーシステムでは、糖新生(とうしんせい)と言って乳酸やアミノ酸からブドウ糖を作るシステムがあるので、糖質をたくさん取らなくてもエネルギー産生は問題ありませんが、糖質が多い食生活になっているとこのシステムが働きにくくなります。(エネルギー産生が嫌気性解糖メインなるということです)
しかし「バランスの良い食事」というのはカロリー主体の考えに基づいているため、未だに炭水化物(糖質)量が5割〜6割を占めています。
以上の様にごはんや麺、パン、ジュースやフルーツ、お菓子などでお腹を満たす様な糖質の多い食事になると、エネルギー代謝が低下しやすくなり、メンタルにも影響を及ぼしてくることになります。
特に日本人女性はタンパク質、鉄不足と言われており、潜在的に鉄が欠乏している女性が多いそうです。
生理や出産妊娠、授乳で多くの鉄を消失してしまうのに加えて、わが国が鉄不足の対策をしていないのも背景にある様です。
前にも書きましたが、アメリカでは小麦粉、メキシコではトウモロコシ粉、フィリピンは米、中国は醤油、東南アジアではナンプラーなどに鉄を添加して、国の対策として鉄欠乏対策を行なっています。
肉の摂取量も欧米女性は日本人女性の約3倍も摂取するそうです。
鉄の種類は大きく二つに分けられます。
動物性の鉄と植物性の鉄です。動物性の鉄は「ヘム鉄」と呼ばれ、赤身の多い肉や魚に多く含まれています。牛肉やレバー、豚肉、マグロやカツオなどですね。
赤身の肉が赤いのは鉄分が豊富に含まれているからです。そして植物性の鉄は「非ヘム鉄」と呼ばれ、ほうれん草や小松菜、プルーンなどに含まれています。
しかしこれら食材に含まれている鉄全てが吸収されるわけではありません。
動物性のヘム鉄は10%〜20%吸収されますが、植物性の非ヘム鉄は1〜5%しか吸収されず吸収率が大きく異なります。
それに非ヘム鉄は、野菜などの食物繊維や、玄米など穀物に含まれる「フィチン酸」、お茶やコーヒーなどに含まれる「タンニン」などの作用で吸収を阻害されやすく、胃や腸が荒れやすいと言われています。
この事からも分かる様に鉄は動物性タンパク質からの摂取をお勧めします。ほうれん草やプルーンじゃダメなのというのは上記の回答になります。しかし食材からの摂取では限界があるため、十分な量が確保出来ません。
特に長い間、低タンパクな食生活を送っている人ほど消化吸収能力がうまく働かなくなっている場合が多いです。その場合はプロテインやキレート加工された鉄サプリメントを使うことで無理なく改善していくことが出来ます。
タンパク質の必要量は、1日あたり体重×1g(スポーツ選手は×2gを目標)ですが、まず30gのタンパク質が食事から摂取できれば良いと思います。
30g摂取というと肉200g分になります。タンパク質食材約15%がタンパク質量だと思って下さい。それにプロテインで補充すると考えると良いでしょう。
スポーツ選手であれば、自分の体重×1gをプロテインで取れると食事からがすごく楽になりますので、まずは1日2回をしっかり飲める様にしよう。
体を形作る材料はタンパク質から作られます。体を動かす物質もタンパク質から作られます。
自分の体のタンパク質の情報はDNAに記憶され、それぞれ細胞やタンパク質の寿命が来ると、その設計図をもとに同じものを細胞は作り続けていかなければいけません。
材料が足りなければ今あるものを壊して材料にします。新しい材料がないと綺麗でしっかりしたお家が建たないのと同じです。
今まで食べてきた物で今のあなたの体は出来ています。
見た目は変わってない様に見えるけど、体の中では細胞が壊して作ってを繰り返しています。
何を食べて生きていくのかはその人の自由ですが、少しだけ細胞のことが分かると健康を見つめ直すきっかけにもなると思います。
ただし糖質も必要な栄養素なので、適度に摂取することは大事です。優先順位を考えて摂取できる様になると良いですね。
今回は、鉄がどこからきて体の中でどの様に働くのかをご説明しました。まだまだ書ききれない部分はありますが、是非分子レベルでの働きを知って、自分やそして大切な人を守る知識をつけて頂ければと思います。
■今回鉄の説明にあたり、分かりやすい書籍をご紹介します。広島県で「ふじかわ心療内科」をされている藤川徳美医師の書籍です。
藤川先生は分子栄養学を臨床にて実践され、栄養療法にて数々の症状を改善されているドクターです。非常に分かりやすく書いてありますので宜しければご覧ください。
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答えは細胞だけが知っています。
チームトレーナー與那城